“How to Raise Money” by Paul Graham [和訳]

会社の起業と経営に関するアドバイスや情報等はいろんな人から受けいてますが、私はY Combinatorのco-founderであるポール・グラアムの教えには常に耳を傾けています。彼が自分のサイトに毎月投稿しているエッセイ集のなかでも今年9月にアップされたものは非常にためになったので、日本でスタートアップされている皆様にも共有したいと思い、そのエッセイの和訳をシェアします。もちろん、翻訳はGengoの人力翻訳でしました!

“How to Raise Money” by Paul Graham

原文はこちら:http://www.paulgraham.com/fr.html

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[記事]

スタートアップ企業は、資金調達を少なくとも1回は行うものである。これらの会社が辿る典型的な道筋は次の通りである。(1) まず準備資金として、Yコンビネータやエンジェル投資家などから数万ドルの投資を受ける。次に (2) 数十万ドルから100万ドルの資金を調達して、実際に会社を設立する。そして (3) 会社が軌道に乗った後、さらに資金を調達して会社の急成長を図る。

しかし、現実の資金調達の過程はこれよりも更に複雑である。上記の第2段階で資金調達を2度行う会社もある。第1段階を飛ばして直接第2段階へ進む会社もある。我々Yコンビネータが扱っている会社を考えて見ると、数十万ドルを既に調達している会社の数が増加している。しかしスタートアップ企業は総て、この3つの段階の中の少なくとも1つを通過するのである。

本エッセイは、第2段階の資金調達に焦点を当てる事にする。我々が投資するスタートアップ企業は、自分たちの企業を投資家たちに紹介する日 (Demo Day) に、この種の資金調達を行なっている。このような活動を行うスタートアップ企業に対して、我々が与えるアドバイスを、このエッセイは集録している。

投資家を動かす力

資金調達は、重量挙げの重いバーベルを持ち上げるような難しさと、パズルを解くような難しさの2つを含んでいる。他人を説得して多額の資金を出させるのは、本質的に困難な事である。だから資金調達の難しさは、重いバーベルを持ち上げる難しさに例える事ができる。とにかくバーベルは挙げるしかない。これは資金調達にまつわる問題には回避出来ない部分がある。しかし同時に、資金調達には回避する事が出来る問題も多数存在している。資金調達がパズルのように難解に思えるのは、会社設立を志す多くの者にとって、それが未知の世界だからである。私は皆さんにパズルの解き方を教える事によって、皆さんが抱える資金調達に関する問題を解決させて頂きたいと思っている。

投資家の行動は、起業家にとって不可解なものである。この原因として、投資家自身の動機の曖昧さが考えられる。しかし投資家が作為的に、起業家を混乱させようとしているのも原因の一つだと思われる。この投資家のあやふやな態度と、経験の浅い起業家が抱く希望的観測とが合わさり、ひどい結果を招くことになる。我々Yコンビネータはこの危険性を、起業家に対し再三に渡って警告している。そのお陰で投資家は、Yコンビネータが育成するスタートアップ企業に対して、彼らが関与していないスタートアップ企業よりも慎重な態度で接するようになったと思われる。上記に示すような我々の努力にも関わらず、投資家と起業家という2つの揮発性の高い要素が反発して起こる対立を、我々は身近で絶えず目撃している。[1]

貴方が経験の浅い起業家であるならば、生き残る為には外から与えられた規則に従うしかない。自分自身の直感に頼るべきではない。私はここで、貴方が生き残る為のルールを幾つか示したいと思う。時には、これらのルールを無視したいと思う事もあるだろう。だから総てのルールの前提となる第0番目のルールとして、私は次のルールを示したい。ルール0: これらのルールは総て、確固たる理由があるから存在している。貴方が進もうとする方向には、それを妨げる強力な力が常に働いている。だから貴方を導くルールが必要なのだ。

貴方の行く手を阻もうとする力は、同時に投資家にも働いている。投資家は2つのシナリオを恐れている。1つは結果的に失敗に終わるスタートアップ企業に、誤った先行投資してしまう恐れ、もう1つは成功するスタートアップ企業への投資のチャンスを逃す恐れである。しかしその一方で、これらの恐れの原因がまさにスタートアップ企業への投資を魅力的なものにしている、というのも事実である。成功する企業はとても早く成長する。だから、投資家はぐずぐずしていられないのだ。スタートアップ企業が明らかに成功すると分かるまで待っていては遅過ぎる。高い利益を得る為には、スタートアップ企業が成功するかまだ分からない時期に投資する必要がある。しかし、その様な投資をする時には、投資した企業が結局失敗に終わるのではないか、という不安も投資家を襲う。実際、投資の失敗は頻繁に起こっている。

投資家は、それが可能ならば様子をじっくりと伺って、行動を起こさず待っていたいと思っている。企業が設立されてから数ヶ月経てば、その企業に関する多くの情報を一週間ごとに得る事が出来る。しかし、長く待てば、他の投資家に先を越されてしまう可能性がある。もちろん、他の投資家たちも「待ち」を決め込みたい、と思っている。その為、投資家一同には、待てるだけ待つという状況が発生する。そして一部の投資家が動き出すと、それを合図に残りの投資家も一斉に行動を起こすのだ。

貴方が資金を必要とし、資金も貴方を必要としている時が、資金調達をするタイミング

成功したスタートアップ企業の多くは、資金調達を経験しているので、資金調達はスタートアップ企業の特性の一つだ、と考えるのは無理のない事である。しかし実際は、そうではない。急成長するという事だけが、スタートアップ企業の特性なのである。急成長する会社の殆どが、(a) さらに急成長する為に外からの資金を得る。そして[b] 彼らのポテンシャルが資金調達を簡単にする。成功するスタートアップ企業は、この (a) と (b) の両方に当てはまることが多く、実際、外部からの資金調達に成功している。しかし、スタートアップ企業自体が急激な成長を望んでいない場合、また、外部からの資金が急成長を促進しないケースも考えられる。貴方の会社がそれに当てはまる場合は、資金を調達しないで頂きたい。

その他、貴方の集金能力が欠けている時も、資金調達を考えるタイミングではない。貴方が投資家を納得させる能力や実績が無いのにも関わらず資金を調達しようとしても、時間が無駄になるばかりでなく、それらの投資家たちからの評価を台無しにしてしまうだろう。

資金調達すべきか、せざるべきか

資金調達で起業家がもっとも予期しないことは、それがどれだけ集中力を削ぐものなのかということである。資金調達を始めたら、他の総ての仕事が進まなくなる。問題は、資金調達活動に時間が取られるという事だけではない。資金調達で 貴方の頭が一杯になってしまう事こそが問題なのだ。このような不安定な状態を長く続ける事は、スタートアップ企業に悪影響を及ぼす。スタートアップ企業は、その創始期に一番伸びるものである。これは、設立者に会社を成長させようとする強い意志があるからである。設立者の集中力が低下すれば、会社の成長が急激に低下するのは当たり前の事である。

資金調達は集中力を大幅に削ぐものなので、資金調達するモードに入るか否かの切り替えがスタートアップ企業には必要である。資金調達しようと決めたら、貴方はそのことだけに集中するべきである。そうすれば、資金調達を早く終わらせることができ、その後に通常の業務に円滑に戻る事が可能なのである。[2]

貴方が資金調達モードに入っていない時でも、投資家からお金を受け取っても良い。これは、貴方が特別の注意を払う事無く資金を入手できる場合である。資金調達において注意を払わなければならない事が2つある: それは投資家を説得する事と、そして彼らと交渉する事である。貴方が資金調達モードに入っていない時にお金を受け取るのは、投資家をわざわざ説得する必要がなく、また、投資条件が貴方にとって良好で、それ以上の条件交渉を必要としない場合にのみにすべきである。例えば、巷で良い評判を得ている投資家が、貴方の会社の転換社債への投資を標準的な手続きを通じて行う意志がある場合、それに対して良い査定額で上限を設ける、設けないに関わらず、貴方は何も考えないで資金を受け取っても良いだろう。[3] この投資が次期に更新されるか否かは、考える必要は無い。以上の話に出て来た「投資家を説得する必要が無い」という言葉は、時間を使って投資家に会う必要が無い、または、彼らの為に書類を用意する必要が無いという意味である。投資家が投資をする準備を整えているものの、貴方が投資家の元に出向く必要がある場合、貴方が資金調達モードに入っていないならば、その投資は断るべきである。何故なら、投資家の元に出向く事は立派な資金調達活動であり、資金調達モードに入っていない貴方はそれを行なうべきではないからである。[4] しかし、投資家にお断りをする際には、呉々も丁重に行って頂きたい。当面は会社の事業に集中しているので、資金調達を行う時期が来たら早速連絡させて頂くという旨を、投資家に伝えるべきである。しかし、丁寧になり過ぎる必要は無い。

貴方が資金調達モードに入っていない時、投資家が貴方に資金調達をするように誘って来る事もあるだろう。もし貴方が資金調達に応じれば、それは彼らにとって非常に喜ばしい話である。何故なら、彼らは他の投資家よりも先に、貴方と契約を結ぶ事が出来るからである。貴方についてもっと知りたい、というEメールを投資家は送って来るだろう。貴方が面識のないベンチャーキャピタルの社員からEメールを受け取ったら、たとえ貴方が資金調達モードに入っていたとしても面会するべきではない。取引はそのように始まるものではないからだ。[5] また、たとえ貴方が良く知っている投資家がEメールを送って来たとしても、貴方が資金調達モードに入るまでは面会を延期するべきである。貴方に会って少し話をしたいだけ、と投資家は言うかもしれないが、実際は彼らがそんな些細な事で満足する訳は無い。会った結果、彼らが貴方を気に入ったら、貴方はどうするのだろうか? お金を投資したいと言い出されたら、貴方はどう対応するのだろうか? 投資の可能性を示唆されても、貴方は交渉に入らないという意志を貫けるだろうか? 貴方が資金調達に精通しており、投資家と何気ない会話を楽しむことが出来るのなら良いだろう。そうでない場合は、今は会社のことに集中しているので、後で資金調達を始めた時に改めて会いたい、と伝えるのが得策だろう。[6]

冒頭に述べた資金調達の第2段階において成功を収める会社の中には、資金調達モードに入っていない時も、数人の投資家をつなぎ止めている会社が見受けられる。これはこれで、良い事だと考えても差し支えないだろう。これは、資金調達が順調に継続化しているような会社の場合、新たに投資家を説得する必要も、条件について交渉する必要も無いからである。

投資家に自分が紹介される時

貴方は投資家と初めて交渉をする際に、その投資家に対して第三者が貴方の紹介をするように、手配すべきである。スタートアップ企業が自分たちを投資家たちに紹介する日 (デモ・デー) に貴方がプレゼンテーションをする場合、貴方は一度に大勢の投資家に対して紹介される。しかし、いずれの場合にしても、自分が行うプレゼンテーションの冒頭で改めて自己紹介を行い、自分に対する情報を補足する必要がある。

貴方が投資家にコンタクトをとる場合、第三者の紹介を介して行なうべきだろうか? 冒頭に述べた資金調達の第2段階においては、そのような第三者の紹介は必須である。貴方がいきなりEメールを使って、ビジネスプランを送り付ける事を許してくれる投資家もいるだろう。しかし、本当はスタートアップ企業から直接コンタクトされる事を望んでいないことは、その投資家のウェブサイトを見れば一目瞭然の筈である。

紹介の効果は、紹介する人物に大きく左右される。最も効果的な紹介は、貴方に資金を出したばかりの著名な投資家からの紹介である。だから貴方にお金を出してくれる投資家を見つけたら、彼らが敬意を払っている別の投資家に自分を紹介してもらうように頼むのが良いだろう。[7] また、投資家が別の会社にも出資している場合、その会社の経営者から紹介を受ける事も効果的である。弁護士やレポーターといったスタートアップ業界の人物からの紹介も良いだろう。

現在では、AngelList、FundersClub、WeFunderといった、貴方を投資家に紹介してくれるウェブサイトがある。これらのサイトはあくまでも、資金を得る際の補助的な手段として位置づけるべきである、と我々はスタートアップ企業に教えている。まずは、貴方自身が培ってきた「つて」を使って資金の調達を試みて頂きたい。これらの「つて」を使った場合は、自分にとって良い投資家になってくれる可能性が高い。まず最初に、著名な投資家から資金を得たという実績を作り、それを上記のサイトで宣伝すれば、サイトからの資金調達は容易になるだろう。

確実なYesでなければ、答えはNoである

条件付きでないオファーの締結、という形で投資家の同意がはっきりするまでは、彼らの言葉を鵜呑みにしてはいけない。

先程も述べた通り、投資家はできることなら「待ちたい」のである。起業家にとって一番危険なのは、待っている彼らが示す態度である。基本的に、投資家は起業家を欺くのである。彼らは今にも投資するように見せかけて、次の瞬間「No」と言うのである。「No」というぐらいならまだ良い。ひどい投資家の場合は、絶対に「No」と言わない。彼らは単に、貴方にEメールを返信しなくなるのだ。そうやって投資家は、投資に関する自由を謳歌したいと考えている。その後、その投資家が態度を突然豹変し、貴方に投資する事を決めたとしたら、それは貴方が注目されていると聞いたからである。単に忙しかったふりをして、ずっと投資を考えていたような態度を取りながら、貴方との交渉を平然と再開するのだ。[8]

しかしこれはまだ、投資家が起業家に行う最悪な行為ではない。貴方とあたかも約束をしているような言葉を使う投資家もいるが、実際には何も約束をしていない事もある。ところが希望的観測に満ちた起業家は、そのような言葉を聞いて、ぬか喜びしてしまうのだ。[9]

でもご安心頂きたい。次の章で私が示すルールは、この偽善に満ちた投資家の行動に対抗する戦術ルールである。しかしこの戦術が効果を発揮する為には、貴方が「Yes」に聞こえる「No」に騙されない事が大前提である。我々が作成したこの要綱がオールマイティーで、問題がオートマチックに解決するという勘違いをしている起業家が沢山いるようだ。投資家が約束したと貴方が思うのなら、その真偽を彼らに問いただすべきである。現状に対する捉え方が、貴方と投資家で異なる場合もあるだろう。この相違が、彼らの認識不足から発生しているのか、それとも貴方の希望的観測から発生しているのかは重要な事ではない。とにかく書面で約束を交わす事によってのみ、相違が一掃されるのである。投資家が確かな証拠を示すまでは、彼らの答えは「No」であると考えるべきである。

「期待値」を考慮しながら、複数の投資家と交渉を行なうべきである

貴方が投資家と交渉する時は、「期待値」の高い投資家に重点を置きながらも、出来るだけ多くの投資家と交渉を進めるべきである。貴方は何人かの投資家と並行して交渉すべきであり、決して一人の投資家だけと話しを進めるべきではない。交渉相手を一人の投資家に絞り、これを完結させた後、次の投資家との単独交渉に望むというスタイルを貴方が取る時間は無いはずである。それに、一人の投資家とだけ話を進めると、その投資家は他の投資家からの圧力を受ける事が無い、という欠点がある。何人かの投資家と並行して交渉する場合、貴方は総ての投資家に同等の注意を払う必要は無い。何人かの投資家は、他よりも見込みがあるのが普通である。ベストな交渉の仕方は、総ての投資家と並行して交渉をする傍ら、見込みがありそうな投資家を優先して交渉を進める事である。[10]

期待値を求める公式は、期待値 = (投資家が「Yes」と言う可能性) × (「Yes」と言った投資家が、自分に投資する金額) である。例えば、多額の投資をする事で知られている著名な投資家がいるが、彼からの融資を取り付けるのが困難であるとする。この投資家に対する期待値は、無名だが融資を取り付け易い小額投資家に対する期待値と同程度である。一方、別の無名の小額投資家がいるとして、彼からの融資を取り付けるのに、貴方は何回も交渉しなくてはならないとする。この場合の期待値は極めて低い。このような投資家に会う事は、極力避けるのが得策である。[11]

期待値に基づいた広範な交渉を投資家と行う事は、「No」を明確に言わずに去ってゆく投資家に、貴方が係わり合いを持つ可能性を最小限にしてくれる。なぜなら、そのような投資家に会う確率が減るからである。丁度、ある種のコンピュータプログラムが貴方のコンピュータを守ってくれるように、期待値に基づいた広範な交渉は、貴方を悪質な投資家から守ってくれるのである。貴方のEメールに返事を出さない投資家、もしくは沢山のミーティングをする事を要求するが、投資を決定する方向に向かわないような投資家に対して、貴方は自動的に時間を割かなくなるのだ。ここで重要な事は、貴方は期待値の評価に関して厳格であり続けなければならない、という事である。ある特定の投資家に対する貴方の淡い期待感が、その投資家に対する評価に影響してはならないのである。自分の方に余計な期待感があると、投資家の貴方に対する興味を過大評価しがちになるので、気を付けなければならない。

自分が置かれている状況を、充分に把握するべきである

投資家が貴方に積極的に働きかけて来た時、その投資家と貴方が本当に良好な関係を築いているかどうかを判断する為には、どうしたら良いのだろうか? その様な時には、彼らの言葉よりも行動に注目するのがベストである。起業家と最初に会話をしてから実際にお金を出資するまでに、投資家は長い道のりを経なければならない。その道がどのようなもので構成されているのか、貴方はその道のどこにいるのか、そして貴方がどれだけのスピードで進んでいるのか、といった事を貴方はいつも心得ておく必要がある。

投資家との会合が終了する前に、双方が次に取るべき行動についてきちんと話し合うべきである。投資家が決定を下すには、何が必要なのか? 投資家は貴方と次回の会合をもつ事が、本当に必要なのか? もし会合が必要なら、一体何について話し合うのか? その会合の開催時期は、いつなのか? 次回の会合が行なわれる前に投資家は自社内部で、自分のパートナーと話し合ったり、ある種の問題を調査したりする必要があるのか? それが必要な場合、時間はどの程度かかるのか? 貴方は強引になり過ぎてはいけないが、これらの事項を把握する必要がある。投資家の態度が不明瞭な場合や、質問への答えを躊躇する場合は、最悪の事態を想定して頂きたい。投資家が本当に貴方に興味があるのなら、現時点から出資までに想定される出来事を、投資家は喜んで話すものである。何故なら、彼らはそのことを既に頭の中で考えているからである。[12]

貴方が充分な交渉の経験を積んでいるのなら、上述した質問を問いかける方法を熟知しているだろう。[13] もし分からないのであれば、そのような場面で使える技を、ここで私は皆さんに伝授したいと思う。貴方が資金調達の経験が浅い、という事を投資家は見抜いているかもしれない。しかし、資金調達経験の浅さは、貴方の魅力を下げる決定的な要因にはならない。貴方が技術関連のスタートアップ企業を興そうとしているのなら、技術に関して一流であるべきだ。資金調達のプロになる必要は無い。Googleの創設者であるLarry氏とSergey氏は、資金調達にかけては「ずぶの素人」であった。だから貴方も資金調達に関して経験が浅い事を正直に伝えるべきであろう。その上で、投資家のプロセスに関する様々な質問を行い、そのプロセスの中で、貴方がどの様な役割を果たすのかを尋ねれば良いのである。[14]

最初の資金調達を成功させる

貴方に対する投資家の意見を左右する最大の要因は、他の投資者の意見である。投資家からの資金調達に貴方が一度成功すれば、その後の資金調達は非常に簡単になる。しかし裏を返せば大半の場合、最初の資金調達を取り付けるのは極めて難しいという事である。

最初の実質的オファーを取り付けるのが資金調達の難しさの半分である、と言っても過言ではないだろう。「実質的オファー」の判断基準は誰からどれだけ貰ったか、という事である。友人や家族から提供された資金は、その額が幾らであろうと、実質的オファーとしてカウントされない。しかし、著名なベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの5万ドルの資金獲得は、実質的オファーを受けたものと見なす事が出来、それ以降の資金調達を円滑に展開してゆくのに役立つだろう。[15]

資金調達作業を完了させる

銀行にお金が振り込まれるまでは、資金調達が完了したとは言えない。経験の浅い起業家が「我々は80万ドルを調達した。」などと言っているのを良く耳にするが、実際には銀行に何も振り込まれていない、というケースが良くある。私が以前にお話しした投資家を苦しめる2つの恐れ、という事を覚えておられるだろうか? 機会を逃してしまうのではないかという恐れが投資家の投資活動を急がせる一方で、無意味なものに飛びついて不良投資をしてしまうのではないかという恐れも投資家を悩ましている、という話である。ベンチャーキャピタル市場は、「買い物をした後に、買った事自体を後悔する」という心理が非常に大きな影響を及ぼしている市場である。またこの市場は、そのような事をした投資家が自己弁護の為に発言した「言い訳」が広くまかり通っている場所でもある。公に開かれているこの市場において、スタートアップ企業に対する投資は、極めてはかない運命にある。例えば中国経済が明日破綻したら、投資は藻くずの様に消えてしまうだろう。しかしその反面、スタートアップ企業に「嬉しい驚き」を与える事も市場には存在しており、思いがけないような多額の資金を集中的に手にする事も充分にあり得る。だが明日、強力な競争相手がいきなり現れる事も考えられる。貴方の会社が閉鎖の憂き目を見るかもしれない。また、貴方の共同出資者がいきなり辞める事もあり得る。[16]

たった1日経っただけで、投資家の考えが変わってしまうかもしれない。だから、投資の約束を取り付けたら、直ぐにお金を受け取るのがベストである。投資家が投資すると口先で言っただけでは、貴方の資金調達活動は完了していない、という事を肝に銘じておく必要がある。投資家が「Yes」と言ったら、その資金の受け取り日程をまず調べ上げ、実際に資金を獲得するまでそのプロセスを管理しなくてはならない。機関投資家の場合には、資金の送金を担当する社員がいる。しかし、貴方自分が投資家本人を捕まえて、小切手を直接書いてもらう必要があるかもしれない。

経験の浅い投資家は、「買い物をした後に、買った事自体を後悔する」という心理に突き動かされがちである。一方、経験豊かな投資家の場合は、自分が発する「Yes」という言葉の重さを充分に承知している。経験豊かな投資家は、安定性が高いという評判を得ている。しかし、最優良クラスのベンチャー投資家でさえも、契約を破棄にしたという話を私は聞いた事がある。

「先行者」にならない投資家は、避けるべきである

資金調達活動における最難関の部分は、最初のオファーを取り付ける事である。貴方は資金調達を始める前に、このことを将来の見通しに対する計算に入れておく事が大切である。投資家が「Yes」という可能性を見積もるだけでなく、その投資家が、自分にとって最初に「Yes」と言う投資家になる可能性も評価しておかなくてはならない。この2つの可能性は、必ずしも単純な比例関係にあるのではない。投資家の中には、決断が早い事で知られている投資家もいる。資金調達の早い段階でそのような投資家と出会う事は、貴方にとって極めて貴重な事である。

一方、他の投資家がお金を出してからしか投資を行わない投資家は、貴方の資金調達の初期段階においては全く価値の無い投資家である。他の投資家が貴方にどれ程の興味を持っているか、ということに殆どの投資家が影響されるのは事実である。しかし、他の投資家が投資した後でないと投資を行わない事を明白なポリシーとしている投資家も存在している。このような非道徳な投資家は、大抵「先行者」について話すので、これによって貴方はこの種の投資家を見分ける事が出来る。彼らは、自分たち自身は投資の「先行者」にならないと臆面無く言ってのける。また、貴方に既に投資した「先行者」がいる場合に限って、自分たちも投資すると言うのである。さらに彼らは、自分自身の先行者になれるものなら喜んでなりたい、と言う事さえもある。この言葉の意味する所は、貴方が他の投資家からお金を得るまで彼らは投資を行わない、という事である。(「先行者になる」という言葉を、「まず私が他者に先駆けて起業家に投資し、それによってその起業家が更なる資金調達をする事を支援する」という意味で投資家が使っているならば結構な話である。しかし、投資家がこの言葉を「まず起業家がどこかで資金を調達する事が必要であり、それによって初めて私が投資をする」という意味に使うのは、何とも酷い話である。)[17]

「先行者」という言葉はどこから発生したのだろうか? 数年前までは、スタートアップ企業の第2段階における資金調達は、複数の投資家たちが同じ契約内容に基づいて同時に投資する株式ラウンドの形式で行われていた。起業家である貴方は、投資グループの代表を務める「先行者」とのみ交渉するだけで良く、そうする事によって、他の投資家は同じ契約書に署名し、総ての資金が一括して流入して来たのである。

シリーズAと呼ばれる投資ラウンドにおいては、上記に示すような形式を今も踏襲している。しかし、シリーズAの前に行われる資金調達は、異なる形式で進行するのが普通である。シリーズAラウンドが行われる前に、起業家にとって「先行者」の役割を果たす投資グループが形成される事は極めて稀である。現在、スタートアップ企業は単純に、個別の投資家から資金調達している。スタートアップ企業はそれを、充分な資金調達を達成するまで繰り返すのである。

このように「先行者」が存在しなくなったのに、なぜ投資家はこの言葉を使い続けるのだろうか? これは、この言葉を使う事によって、彼らが本当に意図している事を、妥当な響きで表現出来るからに過ぎない。投資家が本当に意図している事は、貴方に対する彼らの興味が、貴方に対する他の投資家たちの興味と連動している、という事である。すなわち、「先行者」という言葉を使うという事は、その投資家が三流の投資家である事の証明なのだ。しかし、「先行者」という言葉自体は、何かしっかりとした構造を持っているかのような響きを持っており、投資家が自分の行動を正当化するのにぴったりなのである。

投資家が貴方に対して「私は貴方に投資したいと思っているが、私自身は先行者になる訳にはいきません」と言ったら、貴方はこの言葉を心の中で「私は貴方に投資しません。もし、貴方が優良企業に変身するという絶対的な保証があるのなら、投資します。」という風に解釈すべきである。この投資家の本音は、投資家がスタートアップ企業に対して抱いているごく一般的な考えである。だから彼らは基本的に、貴方に何も言っていないのと同じである。

貴方が資金調達を初めて行う時、「先行者」でない投資家から資金を得る可能性はゼロである。だから、そのような投資家と話す事は、避けるのが賢明である。

複数のプランを持て

投資家の多くは、貴方に資金調達の目標額を尋ねるだろう。この質問を聞くと起業家は、決まった額を調達する計画を予め持っている必要があるのではないか、と感じるものである。しかし、実際はその必要は無い。資金調達のような予想不可能な活動を行う際に、一定の目標を設定する事は大きな間違いである。

ではどうして投資家は、貴方に調達目標額を尋ねるのだろうか? これは、友人へのプレゼントを買いに行った店で販売員が「予算はいくらですか?」と聞いてくるのと同じ理由である。貴方は多分、はっきりとした額を決めてはいないだろう。貴方はただ、良いものを見つけたいだけなのだ。それが手頃な値段であれば、なお結構だと考えているぐらいだろう。貴方は、決まった額を使う計画を立てておく必要は全く無い。販売員がこのような質問をするのは、貴方の予算範囲ぎりぎりの一番高い商品を貴方に見せる為である。

これと同様に、投資家が貴方の調達目標額を尋ねるからといって、貴方はプランを予め立てる必要は無い。彼らが質問する理由は、彼らが投資する額に貴方が見合った人物であるかを見極める為である。また、貴方の志や理性がどの程度なのかを判断する為でもある。これに加えて、貴方が現在、目標額をどの程度達成しているのかを知るのにも、この質問は役立つのである。

貴方が資金調達の達人であるなら、「シリーズAラウンドで700万ドル集める予定です。このラウンドに関する条件概要書は、来週の火曜日から受け付けます。」などと言っても良いだろう。ベンチャー投資家からの嘲笑をまともに受ける事なく、このような事をやってのける起業家を私は幾人か知っている。しかし、貴方が未熟だが勤勉実直なタイプのごく一般的な人間ならば、貴方にお勧めする資金調達の方法は、私がスタートアップの起業者に勧めている自社の売り込み法と類似した方法である。要は、正しい事を行い、その上で、貴方がやっているその正しい事を投資家に伝えるだけである。

資金調達における正しい戦略とは、貴方が見込む調達額ごとに、複数の異なるプランを用意しておく事である。理想的には投資家に対し、貴方は次のように話す事が出来るようになるべきである: 実は私の会社は、これ以上資金を集めなくても充分に収益性を確立することが出来る。しかし、あと数十万ドルの資金を集めれば、優秀な友人を1人か2人さらに雇う事が出来る。余分の資金調達額が数百万ドルに達した場合は、エンジニアチームを丸ごと雇う事も可能になる。

個々の投資家に合わせて異なるプランを使うべきである。シリーズAラウンドだけに投資するベンチャーキャピタル (そのような会社は殆ど残っていないが) に対して貴方が交渉する場合、貴方の一番高額な資金プランだけを話せば時間を無駄にしなくて済む。一方、貴方がまだお金を集めていない状況で、一回に2万ドルだけを投資するエンジェル投資家に対して話すシチュエーションでは、一番低額の資金プランを話すのが良いだろう。

貴方が極めて幸運な星の下に生まれて、調達する資金の上限について考える必要があるならば、その目安は大まかに(貴方が雇いたい人数)× 15,000ドル × 18ヶ月である。殆どのスタートアップ企業では、経営コストは基本的に雇用人数に比例する。1ヶ月につき15,000ドルというのは一人当たりに掛かる、総費用の相場 (手当とオフィススペースも含む) である。1ヶ月15,000ドルというのは高く見積もっているので、実際はそんなに費用を掛けないで頂きたい。しかし、資金調達をしている時は、後で何かの手違いが起こる場合の余裕を考えて、高めの見積もりを用いるのが妥当である。商品の製造などといった費用が別途掛かる場合は、最後にその費用を加えて頂きたい。製造費が掛からないというシナリオで、20名を雇うことを考えているのなら、20 × 15,000ドル × 18 = $540万ドルが調達する資金の最高額として妥当な金額であろう。[18]

集めたい額を低く見積もるべきである

投資家のタイプに合わせて異なる資金プランを用いる事は重要だが、資金調達の目標額を低く見積もるように心掛ける事も大切である。

例えば、貴方が50万ドル集めたいとしよう。その場合、最初は目標を25万ドルに設定にした方が良い。そうすれば、15万ドルを調達した時点で、目標の半分以上を達成した事になる。これによって貴方は2つの有益な合図を、投資家に対して発信する事が出来る。それは、貴方が資金調達を上手に行っているという合図と、資金の受け入れスペースが少なくなってきているので、投資家は早急に投資決断をする必要がある、という合図である。しかし、貴方が50万ドルを目標に資金を集めている、などと言ってしまったら、15万ドルを集めた時点で目標の3分の1も達成していない事になる。その段階で資金調達に多少の時間が掛かっただけで、貴方の資金調達は失敗に終わったと投資家たちは思い込んでしまうのである。

最初に25万ドルを集めると宣言しても、貴方の実際の調達金額が25万ドルに制限される訳ではない。貴方が当初の目標額である25万ドルを達成した時、貴方に対する投資家の興味はまだ高いままである。だから貴方はその時点で、更に資金を集めるかどうかを単に決定すれば良いのである。スタートアップ企業はこのような事をいつもやっている。実際に、資金調達に成功したスタートアップ企業の殆どは、最初に調達しようとした資金よりも多くの金額を最終的に集めている。

私は、貴方に嘘をつけと言っているのではない。ただ、貴方の期待を最初は低めに見積もるべきだ、と言っているのだ。低い目標額から始める事に関しては、マイナス面は殆どない。貴方の資金調達額に制限を加えないばかりでなく、むしろ、最終的な資金調達額を増加させる傾向がある。

低めの目標額に関する状況を簡潔に表現する比喩は、「ボールを投げ出す角度」であろう。ボールを遠くまで投げようと思う時に、投げ出し角度を大きくし過ぎると、到達距離は逆に伸びなくなる。ボールは単に、途中で失速するだけである。生まれて初めて資金調達をする貴方が、シリーズAラウンドで500万ドルを集めると言ったらどうなるだろうか。貴方が強い立場にいる場合を除き、その目標額を達成できないばかりか、何も得られないだろう。まず低い投げ出し角から始め、スピードを増す事に専心すべきである。充分な実力を付けた後、貴方が望むならば徐々に角度を大きくすると良いだろう。

もし可能ならば、収益を上げるべきである

貴方の資金調達プランの中に、資金を全く調達出来ない場合のシナリオが含まれているのなら、貴方はさらに強い立場を取る事が出来るだろう。例えば、追加の資金を調達する事なく収益を上げる事が可能ならば、貴方は強気に出る事が出来る。理想的には、「我々はどんな状況でも成功する。しかし、資金を調達することによって業績はもっと速く伸びる。」と、投資家に対して貴方が言えるようになるのが望ましいのである。

資金調達とデートは非常に似ている部分があるが、一番の類似点は以下に示す事である。貴方がパートナーを必死に探しているように見えると、誰も近寄ってこない。自分が必死である事を相手に悟らせない最良の方法は、最初から必死にならない事である。これが、Yコンビネータで指導を受けているスタートアップ企業に対し、出費を切り詰めるように我々が強く勧める理由の一つである。出費を抑える事によって、会社が利益を生み出している状態を、デモ・デーの当日まで保つのである。少し逆説的に聞こえるかもしれないが、貴方が資金を集めたいのであれば、その必要のない所まで自分を高めてゆくことが、貴方にできる最善の方策なのである。

資金調達には、はっきり区別される2つの形態がある。1つ目の形態は、お金が必要な起業家が、お金を求めて投資家を訪ねる形態である。これは、お金を集めなければ会社が倒産するか、少なくとも社員を解雇しなくてはならない状況に起業家が追い込まれている場合である。2つ目の形態は、お金が絶対に必要という訳ではないが、手持ちの資産だけで成長するよりも、外部の資金を導入した方がもっと速く成長出来るので、起業家が資金の獲得を考えている場合である。これらの違いを強調する為に、名前を付けてみよう。貴方がお金を必要としない時の資金調達をタイプA 、貴方がお金を必要としている時の資金調達をタイプBとしよう。

著名なスタートアップ企業がタイプAの資金調達をしているという記事を読んだ未熟な起業家は、自分も同じようスタイルで資金調達を試みるものである。何故なら、そのやり方がスタートアップ企業に適しているように見えるからだ。しかし彼らには、資金を集める以外に収益を上げる手段がないので、タイプBの資金調達をやってしまう事になる。その時になって初めて、資金調達は困難であり、面白くない活動だという事に彼らは気づき、驚くのである。

もちろん、総てのスタートアップ企業が数ヶ月の間に収益を上げられる訳ではない。もし彼らが記録的な成長を遂げた実績があったり、非常に優れた設立者を有しているというような利点を持っていれば、投資家より強い立場になってゆく事もあるだろう。しかし通常は、時間が経過するに従い、収益の上がらない状況を抱えながら資金調達をするのは、極めて困難になっていくのだ。[19]

自己の企業価値について、楽観的になるべきではない

貴方が資金調達をする際に、貴方の企業価値はどの程度であるべきだろうか? 企業価値に関して最も重要な事は、実は、企業価値はそれ程重要ではない、ということである。

高い企業価値を獲得した起業家が資金調達をする時、自分の企業価値をむやみに自慢する傾向がある。起業家には競争心が旺盛な人々が沢山いる。そして、スタートアップ企業にとっては企業価値だけが目に見える数字である為、彼らは競って高い企業価値を備えて資金調達を行うようになる。これは馬鹿げた事である。何故なら、資金調達は重要なテストではないからである。本当に重要なテストは収益である。資金調達は収益を得る為の手段にしか過ぎない。資金調達をどれだけ上手くやったかを自慢するのは、自分が大学生だった時の成績を自慢するようなものである。

資金調達は重要なテストではない。そればかりでなく、企業価値は資金調達を効率的にするものでさえない。第2段階の資金調達において一番重要な事は、必要な資金を獲得する事である。この段階で資金を得る事が出来れば、本当のテスト、つまり会社の成功へ向けて意識を集中する事ができるのだ。2番目に重要なのは、良い投資家を得る事である。企業価値の重要性は、せいぜい3番目である。

企業価値は重要でない、という事は様々な実例が示している。Dropbox社とAirbnb社は、我々がこれまで出資した企業の中で最も成功している会社である。Yコンビネータでやっている時に、Dropbox社は400万ドル、Airbnb社は260万ドルの企業価値を得てから資金調達を行った。現在の物価はもっと高くなっているので、貴方が資金調達をする場合、Dropbox社やAirbnb社よりも高い企業価値を得て資金調達する事も可能だろう。この言葉で貴方の競争心を満足させて頂きたい。貴方はDropbox社やAirbnb社よりも上手くやっている! しかし、貴方が受けるテストでは、企業価値は関係ないのだ。

貴方が資金調達を始めるにあたり、最初に資金を出す投資家との契約によって貴方の最初の企業価値 (または評価額上限という) が決まる。貴方が多くの利息を生み出せば、それ以降に交渉する投資家に対して貴方の企業価値を上げる事も可能である。しかし基本的には、最初の投資家から得た企業価値が、貴方の「売値」になるのだ。

多くの会社が第2段階の資金調達で体験するような、 複数の投資家からの資金の調達を貴方が行う場合を考えよう。この場合、過剰な期待を持っている投資家が、貴方の最初の投資家になる事を避けるべきである。これは、提供された多額の資金と同程度の資金を、それ以降連続して獲得する事が困難だからである。もちろん貴方がそうしたいのなら、自分の企業価値をわざと下げる事も出来る (この場合、高い企業価値に基づいて投資した以前の投資家と、低くなった企業価値に基づく契約を改めて結ぶ必要がある)。しかし、このような事をすると、貴方は多くの先行者を失う事になるかもしれない。

熱心すぎる投資家が貴方の最初の投資家として現れた場合、貴方が出来る事は、MFN条項付きの上限無し転換社債の形で資金を調達する事である。これは基本的にこの株券の価値の上限が、次に現れる投資家から貴方が獲得する資金によって決定される、という事である。

自分の企業価値が低ければ低い程、資金調達は簡単になる。そうである必然性は無いのだが、実際にはそういう事になっている。第2段階における企業価値のバラツキがせいぜい10倍止まりであるのに対し、会社の事業が大成功を収めた場合、少なくとも100倍の儲けが得られる。このため投資家は、当該スタートアップ企業が大成功する確率を見込み、これに基づいて企業選びをするのである。決して現在の企業価値に基づいて行なうのではない。しかし、投資家が企業価値を重要視すると考えるのは間違いだが、企業価値が重要な数値である事は事実である。投資家から好感を得ているものの、Xドルの高額な企業価値の為に投資を受けられないようなスタートアップ企業は、企業価値を半分のX/2ドルにする事によって、資金調達を楽に進める事が出来るだろう。[20]

企業価値の前にYes/Noをハッキリさせるべきである

投資家の中には投資について貴方と交渉する前に、貴方の企業価値を知りたがる投資家もいる。貴方の企業価値が以前に取引のあった投資家によって既に決定され、具体的な評価額が算定されている場合、貴方はその数値を交渉相手に告げても良いだろう。一方、貴方が今まで投資家から資金を調達した経験が無く、企業価値が決定されていない場合、貴方の自己評価による評価額を交渉相手は聞き出そうとするかもしれない。もし、交渉相手が貴方にとって初めての投資家だったら、これは貴方の資金調達活動の重要な転換点になり得る。すなわち、この投資家と契約を結ぶ事は最重要事項であり、貴方は会話を契約締結に向ける必要がある。企業価値の話を長引かせる事は禁物である。

上記に示した状況において、自己評価による企業価値を言わずに済む方法がある。これは単なる交渉術ではない。貴方と投資家の双方が自分本来の役割を果たすという事である。具体的には、企業価値が貴方にとって最重要事項でなく、これについて深く考えた事が無い、という旨を投資家に伝えるのである。さらに貴方は、自分のパートナーにしたいと思えるような投資家を探しており、また同時に、自分のパートナーとなってくれる投資家を探している、という事を言及すべきである。そして何よりも、その投資家が本当に貴方に投資する意志があるのかどうかを、貴方自身が最初に問い掛けるべきである。このような事を話した後にその投資家が貴方に投資する事を決意した場合には、貴方は自分自身の企業価値を評価しても良いだろう。しかしその為には、投資の確約がまず必要なのである。

企業価値は大して重要では無い。重要なのは資金調達活動を続ける事である。だから我々は、最初の投資家には最小限の企業価値を提示すべきである、と再三に渡って起業家に伝えているのである。貴方がこのテクニックを私が次の章で述べるテクニックと合わせれば、極めて安全なテクニックとして使う事が出来るだろう。 [21]

「企業価値に敏感」なタイプの投資家には気をつけろ

「企業価値に敏感」であると自称するタイプの投資家に、これから貴方も出会うだろう。この言葉が意味する所は、彼らは激情に駆られて交渉をするタイプの人間であり、企業価値の値引き交渉の為には貴方の時間を幾らでも無駄にする、ということである。貴方はこのようなタイプの投資家に決して近づくべきではない。貴方は高い企業価値を追い求めるべきでは無いが、最初の投資家が激情型の交渉者タイプだからという理由で自分の企業価値を無理に低くする必要も無い。このようなタイプの投資家にも、多少の利用価値を備えた人間はいる。しかし、彼らにアプローチするのは、貴方の資金調達活動の終盤に近づいた時点にすべきである。何故ならその時点になると貴方は、「これは、他の総ての投資家が払った金額です。これで納得して頂けるのなら契約に応じましょう、さもなければ交渉はこれで終わりです。」と言えるからである。このようにする事によって、貴方は相場の値段を手にする事が出来るだけでなく、時間も大幅に節約出来るのである。

どの投資家が「企業価値に敏感」であるという評判を博しているかを貴方が熟知しており、そのような投資家との交渉を最後に廻せれば理想的である。しかし、資金調達活動の早い段階で、貴方が気付く前に「企業価値に敏感」なタイプが急に現れてしまう事も度々起こる。そのような時には「期待値に基づいた、広範な交渉を投資家と行うべきである」というルールが、事態にどの様に対応するかを教えてくれる。それは、そのような投資家との関わりを段々と希薄にしてゆく、という対応である。

貴方の企業価値が既に決まっているのにも関わらず、それよりも低い企業価値での投資を試みる投資家も何人か存在する。貴方が自分の企業価値を低くする事は、あくまでも最終手段だとお考え頂きたい。この手段は、貴方の企業価値が高過ぎて、予定金額の調達が困難になってきた時のみに使うべきである。だから、企業価値の値引きを要求する様な投資家と交渉するのは、貴方の調達目標額が達成目前の時に限るのが妥当である。しかし、投資家とのミーティングに関する告知は、開催の少なくとも数日前に行う必要があるので、企業価値の引き下げをしなくてはならなくなる時期を予見する事は不可能である。よって貴方は、企業価値の値引きを要求する投資家と極力会わないようにするべきである。

驚く様な低額のオファーが来た時は、そのオファーを予備のオファーとして取り扱い、その投資家に対する返答を遅らせるべきである。逆に、誠意に満ちた良好なオファーを貰った時は、ある一定の適切な期限内に返答をするのが道義というものである。しかし、低額のオファーを送り付ける事は、極めて不遜な行動である。しかるべき報復行動を受けるのに値するだろう。

即座にオファーを受け入れるべきである

資金調達について書く時、私は「貪欲な」という言葉を少し用心して使わなくてはならない。コンピュータのプログラマーでない人達は、貪欲という言葉をそのまま額面通りに解釈する可能性があるからだ。プログラムマーが使う用語において、「貪欲なアルゴリズム」というのは、将来を見ようとしないアルゴリズム、ということである。「貪欲なアルゴリズム」は、目の前にある選択肢のみを「即座」に処理し、最適な選択肢を選び出すアルゴリズムであり、正しくは「即座に処理するアルゴリズム」という意味である。まさにこのアルゴリズムが、第2段階およびそれ以降の段階の資金調達で、スタートアップ企業が実行すべき事なのである。将来を見ようとしてはいけない。何故なら、(a) 将来は予測不可能だからである。この業界では、意図的に作り出した将来を見せる事によって、人を欺く事が横行している。また、(b) 貴方が資金調達をする一番の目的は、これを早く終わらせて、本来の業務に戻る事だからである。

妥当なオファーを誰かが貴方に申し出たなら、それを受け入れると良いだろう。複数の競合するオファーがあったら、一番良いオファーを受け入れて頂きたい。将来にもっと良いオファーが来る事を期待して、目の前にあるオファーを断ってはいけない。

これらの単純なルールは、様々な事柄に当てはまる。貴方が沢山の投資家から資金を調達しようとしているならば、彼らが「Yes」と言うように仕向けなくてはならない。貴方が充分な資金を調達しつつあると感じるに連れて、オファー受け入れの基準は自然に高くなってゆくだろう。

貴方に対するオファーの提示は、一定の期間続くのが普通である。一瞬にして終わるものではない。だから、他と比べものにならない程の良好なオファー (貴方が必要とする資金の殆どをカバーするオファー) を提示された場合は、他の投資家に対し、受け入れを考慮しているオファーがある事を伝えても良いだろう 。そして彼らに数日間の猶予を与え、新たなオファーを提示する機会を与える事が出来る。このような態度を貴方が取った場合、もっと時間があればオファーの更新をするような投資家を失う可能性がある。しかし当然、貴方は気にする必要は無い。最初のオファーを受け入れるだけである。

数日間しか有効でない「時限爆弾」のようなオファーを貴方に提示する事によって、他の投資家に考慮する時間を与えないようにする投資家もいる。一流の投資家からのオファーが、時限爆弾を抱えている事は稀である。もし時限爆弾であったとしても、爆発までの時間が長いのが普通である。例えば、著名な投資家であるFred Wilson氏などは決して、爆発寸前のオファーを提示したりしない。何故なら彼らは、自分のオファーが選ばれる確信があるからである。しかし、三流以下の投資家は時々、とても短い導火線しか付いていないオファーを提示する。これは、多数の選択肢を持った起業家は自分のオファーを選ばないだろう、と確信している証拠である。3営業日の期限は、許容される範囲である。貴方が同時進行で投資家と交渉しているのなら、それ以上の日数は必要ないだろう。しかし、これ以下の日数が限られているオファーは、提示した投資家が危険人物であるというサインである。大抵の場合、貴方はそのような投資家に強気の勝負を挑んでも構わないし、また、そうする必要に迫られる場合もあるだろう。[22]

オファーを即座に受け入れるよりも、最良の投資家を自分のパートナーにすることを目標にした方が良いように思えるかもしれない。確かにそれは良い目標であるが、第2段階では「最良の投資家を得る」事と「即座にオファーを受け入れる」事が両立する場合が殆どである。最良の投資家は大抵の場合、他の投資家に比べて意志決定する時間が短いからである。上記の2つの目標が同時に満たされない唯一の状況は、良い投資家からのオファー受け入れを貴方が見合わせる事によって、更に良い別の投資家が自分にオファーするかどうかを探る場合である。貴方が複数の投資家と同時進行で交渉をしており、極めて短い期限付きのオファーを既に突き返したのなら、更に良い投資家が現れる可能性は皆無に等しい。しかし、もしそのような投資家が現れた場合は、即座にオファーを受け入れて「最良の投資家を得る」というのは間違ったアドバイスになるだろう。最良の投資家は自分で選りすぐったスタートアップ企業に投資するのが普通であり、スタートアップ企業に対する選り好みも激しい。彼らは交渉を持ち掛けて来るような企業に対しては、投資自体を止めてしまう事も多い。つまり大抵の場合、妥当な投資家からの明確なオファーは、即座に受け入れるべきである。それを断って、更に良い投資家からのオファーを待つのは、悪い選択であると言っても過言ではないだろう。

(第1段階においては、状況は全く異なる。貴方は総ての支援者に対して、同時に資金援助を申し込む事は出来ない。何故なら、そのような事が起こらないように、支援者は自分たちのスケジュールを調整してしまうからである。第1段階では「即座にオファーを受け入れる」と「最良の投資家を得る」は制度的に相容れない。だから、貴方が複数の支援者からの資金援助を希望する場合は、貴方が希望する支援者が一番先に投資内容を決定するように、貴方自身がアレンジする必要がある。)

貴方が複数の投資家から資金を集めている時に、シリーズAが話題に上る事がある。このような場合も、私が示すルールで対処する事が出来る。投資家がシリーズAを話題にした時は、彼らが貴方に契約概要書を実際に渡すまでは、小額の投資を受け取るようにして頂きたい。これを実行する上で、困難な点は一つも無いと思う。転換社債で受け取った小額の投資は、転換されてシリーズAラウンドに加算されるだけである。シリーズAの投資家は、見ず知らずの投資家たちと協力したくないと思っている。しかし、それを本当に嫌だと思うなら、投資家は契約概要書を貴方に提出して契約を進めるだろう。投資家が本当にそうするまでは、彼らの本心は分からない。このような状況に、先述の「即座に処理するアルゴリズム」が貴方の役に立つのである。[23]

第2段階で25%以上を売るべきではない

貴方が物事を上手く進めれば、シリーズAラウンドで資金を集める段階に到達する事がおそらく出来るだろう。私が「おそらく」と言ったのは、シリーズAラウンドの状況が変わってきているからである。現在の規則では、スタートアップ企業はシリーズAラウンドを行わなくてもよい。しかし、実際にシリーズAを行わなかったのは、我々が出資した中ではたったの1社である。だから、スタートアップ企業はシリーズAラウンドを行うのものである、という前提で以下の話を続けたいと思う。[24]

このような状況なので、貴方は資金調達の初期の段階において、シリーズAラウンドでの資金調達を台無しにするような行動は避けるべきである。例えば、初期段階において貴方の会社の40%以上を売ってしまったら、シリーズAラウンドで資金を集めるのが困難になる。何故なら、起業家の経営意欲を刺激する材料となる自社株の残りが少ないのではないか、とベンチャーキャピタルは勘繰るからである。

我々の経験から言うと、第2段階で自社株を25%以上売らないようにする事が肝心である。第1段階で売る株も全体の15%以下に留めておくべきである。上限のない転換社債を用いて貴方が資金集めをする場合は、最終的な投資ラウンドにおいて自分の企業価値はどうなるのかを推測する必要がある。手堅く、控えめに推測して頂きたい。

(第2段階の後で行われる通常のシリーズAラウンドが台無しになるのを避ける事、それが本章におけるルールの目的である。だから、ごく少数のスタートアップ企業のように、第2段階の途中でシリーズAを行うのなら、これはもちろん例外である。)

資金調達は一人の者に任せるべきである

貴方のスタートアップ企業に複数の設立者がいるのなら、その中から資金調達の担当者を一人選任すべきである。こうする事によって、他の共同設立者は会社の業務に専念する事が出来る。資金調達する事が危険なのは、ミーティング等で時間が取られるからではない。資金調達が貴方の心を占有してしまうからである。資金調達を担当する設立者は、資金調達の詳細を共同設立者に知らせないように意識的に努力しなくてはならない。[25]

(共同設立者がお互いを信用し合っていない場合は、上記の方法は多少の摩擦を生むだろう。しかし、信用し合っていない設立者たちには、資金調達よりももっと深刻な問題が起こり、彼らを悩ませるだろう。)

資金調達の担当者としては、その会社の設立者の中で一番優れた人物である筈のCEOが適任だろう。CEOがプログラマーで、その相棒の設立者がセールスマンであってもそうすべきだろうか? その答えは「Yes」である。貴方がそのような会社のCEOだったら、資金調達を行うのは貴方しかいない。

多額な資金の出資を予定している投資家が、投資の最終決断をするためにミーティングの開催を希望している場合、そのミーティングに総ての共同設立者を一緒に連れて行っても良い。しかし、それ以前の段階でその様な事をしてはいけない。投資家を貴方の共同設立者に紹介するのは、ガールフレンドやボーイフレンドを自分の両親に紹介するようなものである。紹介するのは、真剣な段階に達した時のみである。

会社の事業だけに集中している共同設立者が1人か2人残っているとしても、資金調達は膨大なエネルギーを必要とする活動なので、会社の成長は遅滞しがちである。しかしそのような状況に置かれても、出来る限り会社を成長させる努力を払って頂きたい。何故なら、資金調達には一定の時間が必要であり、一瞬で終わるものではないからである。つまり、資金調達の期間に会社に起こった出来事は、資金調達の出来不出来に大きな影響を与えるのである。投資家との最初のミーティングと次のミーティングとの間に会社の業績が急成長したら、投資家は喜んで取引を成立させるだろう。逆に、業績が伸び悩んだり下がったりしたら、投資家が逃げ腰になるのは当たり前である。

貴方は事業概要書と (おそらくは) プレゼン資料が必要になるだろう

第2段階の資金調達では伝統的に、投資家の前でスライドを用いてプレゼンする事になっている。そのようなスライドに網羅されるべき事項について、Sequoia社が幾つかの提言をしている。彼らはプレゼンの「お客様」にあたる投資家なので、彼らの言葉は信じて良いだろう。

私が「伝統的に」と言ったのは、私がスライドに対して賛否両論の考えを持っているからであり、同時に(多分、これには私の個人的な希望が入っているのだと思うが) スライドが巷で使われなくなってきているからでもある。我々が出資したスタートアップ企業の中で最も成功している企業の多くは、第2段階においてスライドを用意しなかった。彼らは、自分たちのプランを投資家に話しただけである。成功を収めているスタートアップ企業の場合、資金調達も創業期の早い段階で始まってしまうので、スライドを作成する時間がなかった、と彼らは言い訳する事が出来るのだ。

貴方は事業概要書も用意したいと思うだろう。事業概要書には、貴方が計画している事、その計画を貴方が良いと思う理由、これまでに達成した事などを簡潔な言葉で記し、1ページ以下にまとめるのが良い。この概要書の目的は、貴方が投資家に話した事を、後で本人に思い出してもらう為のものである (その投資家はその日、沢山のスタートアップ起業家に会ったかもしれない) 。

誰かに渡した資料や事業概要書が、一番知られたくないと思っていた人物の手に渡ってしまう事もあり得るだろう。しかし、貴方が会う投資家に資料を渡すのを躊躇しないで頂きたい。そのような情報のリークは、貴方が事業を行う際に当然払うべきコストだと思って頂きたい。よく考えてみると、このコストはそれ程高くはない事に気付くだろう。自分の計画が競争相手にリークしたら、起業家は当然憤慨するものである。しかし、そのようなリークによって影響を受けたスタートアップ企業を私は存じ上げていない。

貴方に会うかどうかを決める為に、貴方に資料や事業概要書を要求する投資家が存在しているのは事実である。私だったらその要求に応えないだろう。何故なら、資料を要求するという事は、彼らの興味がそれ程高くないという証拠だからである。

頓挫した資金調達活動は、中止すべきである

貴方は資金調達を、いつ中止すべきなのだろうか? 理想的には、貴方が充分に資金を集めた時である。しかし、貴方が計画していた程の資金を集められなかった場合は、どうすれば良いのだろうか? 貴方が資金調達の中止を決定するのは、どの時点がベストなのだろうか?

資金調達活動を中止するタイミングについて、一般的なアドバイスをするのは難しい。何故なら、絶望的に思えた状況にも関わらず資金調達を続けたスタートアップ企業が、その後奇跡的に資金調達に成功した例があるからである。しかし通常、私は起業家に対し、状況が悪くなり始めたら資金調達を止めるように助言している。ストローを使って飲み物を飲んでいる時、飲み物が無くなったのに気付くのは容易である。それは、ストローに大量の空気が入って来た時である。資金調達する方策が尽きたという事は、貴方が得られる資金自体が枯渇したのである。空気しか得られないのなら、ストローを吸い続けないで頂きたい。その様な事を続けても、状況は改善されないのである。

資金調達に依存するな

大部分の起業家にとって、資金調達は面倒な雑用である。しかし資金調達をしている方が、自分の会社の事業に携わるよりも面白いと感じる投資家もいる。創業期におけるスタートアップ企業の仕事は、地味で退屈である場合が多い。ところが順調に進展している時の資金調達は、これと全く正反対であり、極めて面白い仕事であると感じられるだろう。貴方のソフトウェアのバグに関するユーザーの文句を、薄汚い自分のアパートの中で聞くのが前者の仕事である。これに比べて後者の仕事では、素敵なレストランでランチを食べながら、著名な投資家から数百万ドルを得るのである。[26]

資金調達の危険性は、資金調達が得意な人に対しては特に増大する。自分が得意な事をするのは、楽しいものである。貴方が資金調達能力に秀でていて、資金調達自体を楽しむ様なタイプの人間だったら、気を付けて頂きたい。貴方の会社を成功へ導くのは、資金調達ではない。貴方のソフトウェアのバグに関してユーザーからの文句を聞く事こそが、貴方の会社を成功へと導くのだ。資金調達の虜になってしまう事が大きな危険をはらんでいる理由は、資金調達に時間を費やし過ぎてしまうからでもなく、資金を集め過ぎてしまうからでもない。資金調達が危険なのは、貴方が成功していると思い始めてしまうからであり、真の成功を得る為に必要な、退屈な仕事に対する情熱を失ってしまうからである。スタートアップ企業は、これで失敗する可能性がある事を良く覚えておく必要がある。

若い起業家集団が経営するスタートアップ企業が資金調達の段階で大成功を収めているのを見ると、その会社が成功する確率を私は心の中で下げる。新聞は、まるで彼らが未来のGoogleになる事を約束されているかのようにセンセーショナルに書き立てるかもしれない。しかし私は「酷い結果になるだろうな。」と、ひそかに思うのである。

資金を集め過ぎるな

資金を集め過ぎるなどという事を本気で心配しなくてはならないスタートアップ企業は一握りである。しかし、これは実際に起こり得る。過剰な資金を獲得する事によって発生する危険は極めて小さいが、決して侮ってはいけない。過剰資金調達がもたらす危険の一つとして、貴方の会社に対する期待が異常な程までに高くなってしまう事が考えられる。貴方が資金を集め過ぎると、貴方の会社はそれに応じた非常に高い企業価値を得る事になる。そうなると貴方の会社は、次回の資金調達をした後に企業価値がそれ以上高くならないという危険がある。

会社に対する企業価値は、その会社が資金調達をする度に上がって行くのが普通である。企業価値が上がらなければ、会社が何かのトラブルを抱えている証拠であり、その会社に対する興味を投資家が失う結果になるだろう。だから貴方の会社が第2段階の資金調達をした結果、新規投資後の企業価値が3,000万ドルになった場合、次の資金調達 (もっともこれは、貴方が資金を更に必要としている時に行なえば良いのだが) における新規投資前の企業価値は、少なくとも5,000万ドルになる筈である。そして貴方は5,000万ドルを集める為に、必死で資金調達をしなくてはならないのだ。

貴方が今行なっている投資ラウンドでの企業価値に、次の投資ラウンドで貴方が集めなければならない資金の下限値を決めさせるのは、とても危険な事である。何故なら、この2つの値の相関性は、元来それほど強くないからである。

しかし、企業評価よりも調達した資金の方が、もっと危険なものかもしれない。収入が増えれば、それに応じて沢山お金を使いたくなるものである。しかし、創業期の企業がお金を沢山使い過ぎると、大きな災難を招く。出費が増えれば利益を上げるのが難しくなるだけではなく、会社の柔軟性が失われるのである。これは、会社の資金の主な用途は人材確保である、という事実に起因している。会社が抱える社員の数が増えれば増える程、会社の方向転換をするのがより難しくなってゆくのである。だから、貴方が莫大な資金を調達したら、それを使わないで頂きたい。(膨大な資金を手に入れた貴方は、そのアドバイスに従うのは殆ど不可能だと言う事に気付くだろう。お金は羽が生えたように何処かへ行ってしまうに違いない。しかし、アドバイスに従う努力を、少なくとも一度はして頂きたい。)

「良い人」であり続けるべきである

資金調達をしているスタートアップ企業の起業家は、横柄に見えてしまうものである。これが、投資家を遠ざけてしまう事が頻繁に発生する。横柄さは、単に彼らの人格をそのまま現わしている場合もある。また新米の起業家が、ベテラン起業家のワイルドさを変に真似た為に、態度が横柄になってしまった場合もある。

起業家が投資家に対して横柄に振る舞うのは間違いである。投資家の中にはある種の横柄さを好む人もいるが、これは特殊な例であり、好みは投資家によって大きく異なる。ある投資家を服従させるムチの一振りが、別の投資家の逆鱗に触れる事は大いに考えられる 。貴方にとって最も安全なやり方は、決して横柄に振る舞わない事である。

この章で私が示すアドバイスに貴方が従う場合、貴方はちょっとした外交的手腕を振るう必要であるだろう。何故なら、私のアドバイスは基本的に、真剣勝負の戦い方に関するものだからである。貴方が投資家に会うのを断る時には色々な理由があると思う。例えば、貴方が資金調達モードでない場合、決断の遅い投資家と距離をおきたい場合、オファーに付帯した条件にわざと従わない事によって、「No」である自分の返答を投資家に直接会う事なしに暗示的に伝えたい場合、他のオファーを即座に受け入れてしまった為その投資家を除外する事になってしまった場合、などといった理由があるだろう。いずれの場合も投資家が嫌がる事を、貴方はする事になる。だから、柔らかい言葉でその衝撃を和らげる必要がある。我々Yコンビネータで学ぶスタートアップ企業に対しては、彼らが投資家に断りを入れるような状況に遭遇した時、それを我々の責任にしても良いと伝えている。このエッセイを書いているのは私なので、非難したい人は誰でも私を非難してもらっても構わない。また、自分は未熟者であるという言い訳は、切り札として殆どの状況で使えるだろう。例えば貴方は「申し訳ありません。我々は貴方を素晴らしい方だと思うのですが、スタートアップ企業は___すべきではないとPaul Graham (筆者である私の名前だ) が言っているのです。我々は資金調達に関して経験が全く無いので、安全策を取る方が良いと考えているのです。」などのように言う事が出来るのである。

横柄に振る舞うことが非常に危険な行為になるのは、貴方が資金調達を順調に行なっている時である。誰もが貴方を欲している時、自惚れないでいるのは難しい。最近まで誰も貴方に見向きもしなかった場合は、特にそうなってしまう。しかし、自分を律して頂きたい。スタートアップ業界は狭い所であり、スタートアップ企業は多くの浮き沈みを経験する。スタートアップ業界は「高ぶりは倒れに先立つ (うぬぼれは滅びに先立つ)」という格言が良く当てはまる場所なのである。[27]

しかし逆に、投資家が貴方を断る場合も愛想良くして頂きたい。一流の投資家は、貴方に対する以前の印象に長く固執しないものである。貴方が第2段階において、ある投資家に断られたとしても、その後、貴方が良い業績を残せば、第3段階で彼らが投資してくれる事はよくある話である。以前貴方を断った投資家が、将来の資金調達において友好的な先行者になってくれる事もあるだろう。この理由として以前、決定に長い時間を費やした挙げ句に貴方に「No」と言った投資家は、実はもう少しで「Yes」と言う所だった、などという事が考えられる。貴方の会社の中でも、少しの証拠を示すだけで誤解を解き、あなたの支持者になってくれる人がいるだろう。だから、貴方を断った投資家に愛想良く接する事だけでなく、 (彼らが悪い態度をとらない限り)  それを、これから始まる深い付き合いの切っ掛けとして考える事が肝要である。

次のハードルはもっと高くなるだろう

第2段階で貴方が調達した資金が、最後の資金である、というシチュエーションを考えて頂きたい。貴方はその資金を使って 、自分の会社の収益性を何が何でも上げなければならないだろう。

過去数年に渡って投資家は、少数の選ばれたスタートアップ企業に対する支援を起業初期から行ない、それを何年も継続するという戦略をとってきた。しかし最近では、起業の初期段階にある多数のスタートアップ企業に資金をばらまき、次のステージで要らない会社を残酷にも間引くという戦略に変えたのである。これは投資家にとっては最善の戦略だろう。確かに、早い段階で勝者を選定するのは困難である。市場で淘汰されるのを待った方が理に適っている。この様な厳しい状況の中で生き残る事は極めて難しい事だが、第3段階で資金を調達する事は、これよりも更に難しい事に気が付き、スタートアップ企業は驚くのである。

貴方の会社が創業して数ヶ月ならば、自分の会社が投資に値するか、という実験を自らが実験台になって始め、どんな実験結果が得られるか見守っていれば良い。貴方が次回の資金調達をする時点で、その実験は成功していなければならない。つまり、貴方の会社は株式上場というゴールに向かって、順調に進んでいなければならない。何をもって実験が成功したと言うか、という事に関しては、色々な考え方がある。例えばスタートアップ企業に業績について質問をし、答えが返って来るまでの時間も実験の良否に使えるかもしれない。(応答時間が短い場合は業績が順調。言い淀むのは、問題がある証拠。) しかし実験結果を、会社の収益性で計るのが普通だろう。通常、第3段階の資金調達はタイプAの形式で行なう必要がある。

ところが実際には第3段階の資金調達を行なう前に、第2段階と第3段階の間でスタートアップ企業が自分で自分の首を絞めてしまうシナリオが2つ考えられる。その1つは、収益性を有する会社になる時期を逸してしまうというシナリオである。スタートアップ企業は、追加資金を調達する事なく2年間持ち堪えるだけの資金を集めて操業を始めるものである。だから操業初期は、特に利益を上げる必要性に迫られない。最初の1年間がお金を稼ぐ努力をせずに過ぎてしまう。そしてこの時点で気が付いてみると、お金を稼がない事が習慣になっているのだ。やっとお金を稼ごうと決意した時には、もう手遅れ。そんな事が出来ない自分になっている。

会社自滅の2つ目のシナリオは、経費を急に増やしてしまう事によって発生する。殆どの場合、人の雇い過ぎである。第2段階で資金調達をした直後に、貴方は8人も人を雇う必要は無い。通常は、人を雇いたかったら、会社が成長するまで (収益性を確立するまで) 待った方が良い。多くのベンチャー投資家は、積極的に人材を雇うように貴方に勧めるだろう。概してベンチャー投資家は、お金を沢山使うように進言するものである。これは、問題はお金で解決出来る、という考えを彼らがもっているからである。また、次回の投資ラウンドで貴方に自社株をもっと売ってもらいたいからである。ベンチャー投資家の言う事には耳を傾けてはいけない。

物事を複雑にするな

私のこの長いエッセイを総括するアドバイスは、資金調達を複雑にするな、という事である。この言葉を聞いて不思議に思う読者もいるかもしれない。しかし、これまでに私が示したルールを見返して頂ければ、沢山の関連事項や特殊ケースを網羅しているものの、基本的にとてもシンプルな秘訣が示されていた事がお分かり頂けると思う。貴方が資金調達活動を始めるまでは、投資家に会うのを避けるべきである。ひとたび資金調達を始めたら、複数の投資家たちと並行して話し合いをもちながらも、貴方が高い期待値をつけた投資家を優先して交渉を進め、提示されたオファーに即時に同意して頂きたい。一言で言えば、それが資金調達というものなのだ。 資金調達の最適化などは、複雑すぎる。絶対に行なうべきではない。また、投資家が物事を複雑にしないように、目を光らせている必要もある。

資金調達はそれ自体、貴方に成功を与えるものではない。資金調達は、成功を勝ち取るための手段に過ぎない。貴方の第一の目標は資金調達を短時間で終了し、貴方を成功へと導く真の要因である本来業務へと戻る事である。それは物を作る事、ユーザーと話しをする事である。多くのスタートアップ企業にとって、私が示した道が、その成功に至る確実な方法であると確信している。

良い人間であり続け、自分の行動に責任を持ち、正しい道を踏み外さないでいてほしい。

[完]

 

注釈

[1] 最悪の対立は、見込みのなさそうなスタートアップ企業が三流の投資家と出会う時に起こる。良い投資家はスタートアップ企業を欺いたりしない。自分たちの評判が大切だからである。また、見込みのあるスタートアップ企業は大抵、良い投資家から十分な資金を受け取るので、三流の投資家と話す必要はない。三流の投資家からの資金に頼らなければならないのは、見込みのなさそうなスタートアップ企業である。そして、三流の投資家が見込みのなさそうなスタートアップ企業を見捨てると、打撃は特に大きい。何故なら、見込みのないように見えるスタートアップ企業は大抵、お金に困っているからである。

(見込みのなさそうな総てのスタートアップ企業が上手く行かないのではない。見込みのないスタートアップ企業の中には、後に白鳥になる「みにくいアヒルの子」も含まれている。彼らはスタートアップ業界の異端児なのである。)

[2] Yコンビネータの創立者の一人が私に語った言葉:

全般的に見て、我々は資金調達を上手く行ってきたと思う。しかし私は不覚にも、全く同じ事で2度も失敗した事がある。それは、会社の経営と資金調達を同時に行ってしまった事である。

[3] ここで貴方が気を付けなければならない危険は僅かではあるが、1つだけある。それは貴方の会社の企業価値が高くなってしまう事である。だから、熱心な投資家から高すぎる企業価値を得ないように気を付けて頂きたい。これは、次回の資金調達を行う時に、目標がむやみに高くならないようにする為である。詳細については、このエッセイで後ほどお伝えする。

[4] 投資家がミーティングを開く必要が本当にあるのなら、口先で何と言おうと、彼らの投資の準備が整っていないという意味である。彼らはまだ、投資の最終決定に至っていない。つまり、貴方に求められている事は、彼らに会って、彼らを納得させる事である。これが現実の資金調達というものである。

[5] ベンチャーキャピタルの渉外担当者は面識のないスタートアップ企業に対し、ダイレクトEメールを送ってくる。純真な起業家は、「これは凄い。ベンチャーキャピタルが我々に興味を持っている!」と思うだろう。しかし、その担当者はベンチャーキャピタル自身ではない。つまり、当の渉外担当者には何の意思決定力もないのである。彼らは気に入ったスタートアップ企業を、自社と繋がりのある投資家パートナーに紹介するかもしれない。しかし、投資家パートナーはこのように紹介されたスタートアップ企業に好感を持たないのが普通である。ベンチャーキャピタルの渉外担当者がスタートアップ企業にダイレクトEメールを送る事から始まったベンチャーキャピタルの投資は、私の知る限り一つもない。貴方が特定の投資家と交渉したいと思うのなら、その投資家が信頼する人物から直接紹介してもらうのが良いだろう。

ベンチャーキャピタルに自分を直接紹介してもらえるという確約があるのなら、その渉外担当者と話しても良いだろう。また、ベンチャーキャピタルと貴方がデモ・デーで出会った後、その渉外担当者が行った貴方に対する評価を元にベンチャービジネスとの交渉が始まるなら、同様にその渉外担当者と話す価値はある。しかしこれらは、有望な資金調達のきっかけではないので、貴方はあまり時間を掛けるべきではない 。しかし、ダイレクトEメールに比べれば、資金獲得の可能性は多少高いだろう。

「渉外担当」という肩書きは、投資業界で悪い評判を得ている。このためベンチャーキャピタルの中にはこのような業務を担当する社員に「パートナー」という肩書きを与えている所もある。しかしこれは、状況をとても複雑にしている。貴方がYコンビネータのスタートアップ企業であれば、その社員の身元を我々に聞く事が出来る。そうでないスタートアップ企業の場合は、インターネットで調べる必要があるだろう。 「パートナー」なる人物の、本当の肩書きを発見できるかもしれない。マスコミや会社のブログサイトで広報を担当している人物は、たぶん投資家自身か、その側近だろう。また、ある人物が取締役会の一員なら、彼は恐らく本当に重役クラスの人物なのだろう。

「渉外担当」と「パートナー」の他に、「会長」や「ベンチャーパートナー」などといった肩書きが存在する。これらの肩書きが意味するところは会社によって大きく違うので、一般化するのは難しい。

[6] 同様な理由から、企業売買業者との何気ない会話も厳に慎むべきである。彼らとの会話が貴方の集中力を乱す力は、資金調達のそれよりも遥かに高い。すぐに貴方の会社を売却する予定がないのであれば、企業売買業者と会う事は禁物である。

[7] 資金を出してくれた1人の投資家から別の2人の投資家を紹介してもらうようにしたらどうか、とJoshua Reeves氏は具体的に提唱している。

他の投資家を紹介する事に乗り気でない投資家に、無理にお願いしてはいけない。そのような事をすると、その投資家は貴方に関する悪い評判を、他の投資家に広めるだろう。

[8] 投資家はこのような行動を、意図的に取るとは限らない。ベンチャービジネス業界において、起業家と投資家の交渉延期や打ち切りなどは、日常茶飯事である。このような風習は、投資家にとって都合の良い形になるように変貌を遂げてきたのである。

[9] このエッセイの草稿を読んだYコンビネータの創立者の一人は、次のように記している:

この章は、本エッセイにおける一番重要な部分である。個人的にはもっと明確に記述しても良いと思う。「投資家は、今後の自分の行動に関する選択肢を多く持ち続けたいと思っている。だから投資家はわざと、貴方に対して大きな興味を持っているようなふりをするのだ。或る投資家が貴方にとても興味を示しているように見えても、投資をする段階にはまだ達していないかもしれない。これに対して貴方が出来る事は、最悪の事態を想定することである。正式な契約を交わすまでは、投資家の興味が偽りであると見なすのである。」

[10] 投資家たちとのミーティングを、出来るだけ過密なスケジュールでこなすのも一つの方法である。しかしJeff Byun氏は、このやり方を快く思っていない。ミーティング同士の間隔が短すぎると、投資家に説明する事業計画を練るための時間を充分に取る事が困難になる、というのが同氏の主張である。

起業家の中には意図的に、三流以下の投資家とのミーティングを最初に行う者もいる。そのような起業家の狙いは、資金調達の予定から害虫をまず取り除く事である。

[11] 期待値の高い投資家を効率的に探す事の出来る「市場」などというものは存在しない。ちなみに役立たずの投資家と融資関係を保つ事は大変な労力を要する事であり、その度合いは投資家の質が悪い程大きい。

[12] ちなみにこの段落では、「セースルマンの虎の巻」のような事が述べられている。虎の巻が使われている所を見たければ、自動車販売代理店に行く事をお勧めする。

[13] 私はとても口がうまい起業家を1人知っている。彼はまるでレストランで隣の人に「ちょっと塩を取ってくれるかい?」とでも言うように「まあ、そういう訳だからサァ、君も僕らの仲間に入るだろう? 」と言ってミーティングを締めくくっていた。貴方が口達者でない限り (自分がそうかどうか分からない時は、だいたいそうではないだろう)、これは試さないで頂きたい。投資家にとって、オタクっぽい起業家が滑らかな台詞を言おうとする事ほど、説得力の無いものはない。

投資家は、オタクっぽい起業家に対して融資する事に関しては、何の抵抗もない。だから貴方がオタクだったら、口のうまいセールスマンを下手にまねるよりも、ただ単に善良なオタクのままでいて頂きたい。

[14] 潜在的な投資家がどれだけ真剣なのかを見分ける良い方法を、Ian Hogarth氏は提案している。それは、最初のミーティングの後に投資家が貴方の為に費やした時間、金額、物品等の量を目安にする方法である。貴方に対して本当に興味がある投資家は、投資契約を締結する前でさえも、貴方を援助しようとするものである。

[15] いわゆる「風評被害」について貴方は一応考慮しておく必要があるかもしれない。著名なベンチャーキャピタルが貴方に小額のシード投資を行ったものの、次に貴方が資金を調達する時には投資をしたくないと思っているとしたらどうだろうか? 他の投資家は、次のように考えるだろう。あのベンチャーキャピタルは貴方に現在投資を行っている。だから、貴方の事を良く知っているに違いない。次の投資ラウンドで貴方に投資を行いたくないという事は、貴方に何か重大な欠陥があるという事を示しているに違いない、と。これが「風評被害」の一例である。私が冒頭で「一応」と言った理由は、これまで実際に「風評被害」が問題になった事が殆どないからである。「風評被害」は滅多に起こらないし、それが起こった過去の事例においては、当事者のスタートアップ企業の質が実際に低く、彼らの事業は最初から頓挫する運命にあった。事業の不成功は、風評の為ではなかったのである。

貴方にシード投資家に対する選択肢が豊富にあるのなら、その選択肢からベンチャーキャピタルを排除する事で安全策を取る事が出来る。しかしこれは、決定的に重要な事ではない。

[16] 貴方が資金調達を始めた時に、貴方に対する訴訟を起こす事によって貴方を故意に妨害するライバル会社もいるかもしれない。彼らは、貴方が訴訟の事を投資家に公開しなければならない事を熟知している。これによって貴方の資金調達を難しくする事が彼らの狙いなのだ。このような事態が起こった場合、被害を被るのは投資家ではなく貴方の方である。経験豊富な投資家はこのような策略について精通しており、実際の裁判は殆ど起こらない事を知っている。だから、貴方がこのような攻撃を受けたら、投資家に率直な態度で接し、事の顛末を総て話してしまった方が良い。貴方が動揺している姿を見ると、投資家は警戒するものである。

[17] これと関連した策略には、他の投資家が投資している場合にのみ自分は投資する、というのがある。自分の資金をプラスしなければ貴方は「資本不足」に陥ってしまう、と彼らは主張するのである。この策略は殆どの場合でたらめである。貴方が必要な最低資本を、彼らが正確に推測するのは不可能である。

[18] 貴方は20人の人を全員一度に雇わないだろう。そして多分、貴方は18ヶ月が終わる前に収益を幾らか上げているだろう。しかし、それら (20人を一度に雇う) も想定しうるシナリオに含めても良いだろう。また少なくとも、許容される誤差範囲として考えて差し支えないだろう。

[19] タイプBの資金調達に比べてタイプAの資金調達の方が断然に良い。だから貴方が近い未来に資金調達をするのであれば、タイプAの資金調達をやってみる価値があるかもしれない。Yコンビネータ創立者の一人は、初めて会社を設立した時に自分がもう一度戻れるとしたら「先行投資を用いた資本集約のプランを、著名な投資家に提示するだろう」と、私に言った事がある。

[20] このようなことが起こるのは、投資家の計算能力が欠如しているからなのか、投資家が自分たちにスタートアップ企業の成否を予知する能力が備わっていないと信じているからなのか (この場合には、少なくとも合理性を逸脱しない) は、私には分からない。しかし、いずれの理由にせよ、得られる結果は同じである。

[21] もし貴方がYコンビネータのスタートアップ企業で、貴方に自社の企業価値を決めるように要求する投資家に遭遇した場合、Yコンビネータの投資家パートナーが貴方に代わって、貴社の企業価値を算出する事が出来るだろう。

[22] 投資家が正直な態度で接してきた場合、貴方も同様な態度で対応すべきである。期限付きでない誠実なオファーを投資家が提示してきた時は、素早く返答を行うのが道徳というものであろう。

[23] シリーズAラウンドを話題にしてくる投資家に対しては、貴方が既に調達した小額の投資について話すと良いだろう。これは、自分の資産表に関する最新の情報を彼らに公開する義務を、貴方が果たす事になるばかりではない。そのような投資家に行動を起こさせるのに適した方法でもある。彼らは貴方が他の投資家から資金を調達するのを快く思わないだろう。そして、貴方がそのような資金調達を止めるように、圧力を掛けてくるかもしれない。しかし彼らはまず貴方に、貴方との取引に関する誓約書を提出する必要がある。そうでなければ彼らは法的手段を用いて、貴方に自分たちだけと取引するよう要求する事は出来ない。彼らが貴方に他者からの資金調達を止めて欲しければ、ノーショップ条項が付いたシリーズAの契約概要書を貴方に提出する必要がある。

自分に投資してくれそうなシリーズA投資家が良い評判を得ていたり、貴方に提出する為の契約概要書を彼らが迅速に準備している事が明らかなら、貴方は少し安心しても良いだろう。特に、Yコンビネータのような第3者が関与している場合は、双方に誤解がない事を保証してくれる。しかし、細心の注意を払って行動して頂きたい。

[24] シリーズAを行わなかったその1社は、Weebly社である。同社は65万ドルのシード投資を用いて収益性を確立したのである。2008年の秋に彼らはシリーズAの資金調達を行おうとしたが、彼らに提示された契約はとてもひどいものだったので、彼らはAラウンドの資金調達を中止したのだ (資金調達の時期が米国発の世界同時不況が起こった2008年の秋だったことも、中止の一つの理由だろう)。

[25] 資金調達に関するミーティングを一人の設立者に任せるもう一つの利点は、貴方がリアルタイムで交渉を行わなくて良い、という事である。リアルタイムの交渉は、未熟な起業家が避けなければいけない事である。Yコンビネータ創立者の一人が、次のような話を私にしてくれた事がある:

投資家は交渉の達人であり、その場で簡単に交渉を行う事が出来る。投資家とのミーティングに貴方が設立者の代表として出席している場合は、貴方は彼らと何らかの誓約を交わす前に「私は共同設立者に伝えなくてはなりません」と言う事が出来る。私も昔、この手段をよく使っていたものだ。

[26] 自分がのめり込んでしまう程に資金調達が楽しく感じられるなら、貴方はラッキーである。多くの場合、貴方はこれと対極の状況を心配しなければならない。すなわち、投資家に拒否されて落胆している状況である。このエッセイの草案を読んで、Yコンビネータの (とても成功している) 創立者の一人は、次のように記している:

資金調達活動において投資家から屈辱的に拒絶された時、これを受け止めるのは精神的にタフな事である。健全な心理状態を持ち合わせていなければ、とても受け止める事は出来ない。ユーザーは貴方を気に入ってくれるかもしれない。しかし、利口だと言われているこの投資家は、貴方を全く理解してくれないだろう。 遠い昔に投資家から受けた拒絶という仕打ちは、今でも私の心を苦しめている。殆どの投資家に温かい思いやりの心が無いという事実と、勝負に勝つ為には気が滅入るようなルールに従って資金調達という名のゲームをする必要があるという事実を、私はやっと受け入れる事が出来るようになってきた。

[27] 欽定訳聖書に載っている実際の文章は、「 高ぶりは破滅に先立ち、心の高慢は倒れに先立つ。」である。

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Matthew Romaine

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Matthew Romaine

CEO、コーファウンダー。アメリカ、マサチューセッツ州出身。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれる。アメリカのBrown University卒業後、Stanford UniversityにてMusic, Science and Technologyの修士課程を修了。卒業後、オーディオ関連のエンジニアと してソニーに入社。退職後、受託業務をメインとするウェブ制作会社を立ち上 げる。2009年6月に、コーファウンダーのロバート ラングと“Communicate freely.”というビジョンのもと、人力による翻訳プラットフォーム 、株式会社Gengoを設立。


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